病院事務員におけるリカレント教育の現状と課題

著者:藤井 崇久

専門職集団の中での病院事務員の位置づけ

私は就職してから約25年間、転職は一度もせず、主に病院グループを運営している団体に所属しています。法人の本部勤務や関連団体へ出向していた数年を除いて、ずっとグループ内の病院において事務員をしてきました。
 病院というのはご存じのとおり、医師をはじめ、看護師、助産師、薬剤師、診療放射線技師等の国家資格を有した専門職が、それぞれその専門性を活かし、チームとして協力しながら日々患者さんの治療にあたっています。
 そして、忘れてはならないのが、国家資格を持たず、専門職集団を陰で支えている、私たち病院事務職員です。
 病院の事務部(局)は、病院にもよりますが、総務課、経理課、調達課(用度課)など、他の企業でも存在する部署に加えて、医事課(医療事務課)という診療費の計算を主として、それに付随する業務を担う病院独自の部署があります。医事課の職員は、「診療報酬」という診療費を計算するための複雑なルールを習得する必要があり、それに付随して、難病や身体障害、労災保険などの周辺の制度や診療費の計算の前提となる医療の中身に関する知識も求められます。
 現在、女優の石原さとみさん主演の病院薬剤師ドラマ「アンサング・シンデレラ」が放映されていますが、この「アンサング」→「讃えられない」「縁の下の力持ち」という言葉は、個人的には病院内においては、私たち事務員にこそ当てはまる言葉だと考えています。

病院事務員におけるリカレント教育の現状

先ほども書いたとおり、病院内には医師をはじめ、国家資格を有している職種が多数あり、そのような専門職の人たちには、それぞれ職種ごと、専門領域ごとに多数の学会があり、それらに加入し、学会出席、学会発表等を通じて、古くからいわゆる「リカレント教育」が実践されてきています。
 また、多くの病院では、各専門職がそれらの学会に加入するための会費、また学会に参加するための参加費、旅費等を「研究費」という名目で給料とは別に支給しています。
 一方、私のような事務員は、先述の医事課職員のように複雑な知識が要求されるにも関わらず、多くの病院では研究費に相当するような自己研鑽のための支給は行われず、一部の意識の高い職員による「自腹」での自主的な研鑽が行われているのが現状です。そのため、全体としての質が上がらず、また多くの場合、医事課職員も事務職員全体の中で人事異動があり、せっかく医事に係る知識を習得しても総務部門等へ配置替えになり、その知見を活かせない(もちろん、その逆もありえます。)ということもしばしば見られます。

病院事務員に求められるリカレント教育の在り方

以上のような現状を踏まえて、これからの病院事務職員におけるリカレント教育について考えてみます。
 病院事務職員においても人事異動があり、専門性が育ちにくいという側面がありますが、一方で、私の経験則ではありますが、仕事に真面目に取り組んでいる人ほど、経験年数を経るにつれて、その人なりの「畑」ができてきます。例えば、「総務畑」「経理畑」「医事畑」といった感じです。
 ある程度、自分のキャリアの方向性が見えてくると、そこを強化していくことが考えられます。総務課や経理課については、労務管理や簿記等の知識とそれに基づく経験を積むことで病院内の専門職や院長、副院長等の経営層から信頼を得ることができます。
 また、医事課職員については、診療報酬の知識、医療諸制度の知識、医療に関する知識等を習得する必要がありますが、これらは、総務や経理等と比較して、改正の量や頻度が多く、常にアンテナを高くしておく必要があります。医事系の職員については、一定数を「医事課専門職」として、切れ目なくキャリアを積む人材が必要だろうと考えます。
 そして、昨今、年を追うごとに重要性を増してきているのが、病院経営と医療情報システムに関する人材です。これらは従来の総務、経理、医事・・・という枠組みでは対応できず、他の専門職と同様、高度な専門性が要求されているものです。
 規模の大きな病院では、「経営企画課」「医療情報課」などの部署が置かれています。
 少子高齢化の進行による医療需要の変化(生活習慣病の増加等)、医療従事者の減少等、地域の実情にあった医療を提供するため、広い視点から病院の進むべき方向性を検討していく経営企画に係る人材、また、他の産業と同様、ITの重要性が日増しに強まっている医療業界において、病院情報システムを適切に構築、運営していくための医療情報システムに係る人材の育成がポイントになっています。
 病院管理、医療情報、診療情報等に関しては、それぞれの学会も存在し、人材育成や会員同士の連携が図られているところです。
 今後、各病院においては病院を適切に運営し、地域にとって、より良い医療を提供し続けていくために、病院経営及び医療情報システムに係る人材について、担当職員の自発的な自己研鑽に委ねるのではなく、専門職として、病院の責任において積極的に人材を育成し、院内で働く他の多くの専門職が無駄なく、有機的に連携し、効率的な医療が提供できるような体制の構築に努めていくことが強く求められています。

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